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名古屋高等裁判所 昭和50年(ラ)7号 決定 1975年3月19日

抗告人 竹内甫

右代理人弁護士 景山米夫

相手方 オーツタイヤ株式会社

右代表者代表取締役 飯尾富雄

右代理人弁護士 宇津呂雄章

同 和泉征尚

主文

原決定を取り消す。

相手方の移送申立を却下する。

抗告費用は、相手方の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙抗告状記載のとおりである。

本件仮処分事件の被保全権利が実用新案権(仮保護の権利)侵害に因る差止請求であることは、仮処分申請の趣旨及び理由に徴して明らかである。仮処分事件は、原則として、本案事件につき管轄権を有する裁判所の専属管轄に属するところ(民事訴訟法七五七条一項)、本件仮処分の本案である差止請求事件は、被告の普通裁判籍または、義務履行地を管轄する裁判所の管轄に属するというべきである(民事訴訟法一条、四条、五条)、ただ、差止請求の如き不作為請求の義務履行地は、不作為の場所が限定的でないものであれば、債務者の住所または居所が義務履行地と解され、本件の場合も、限定的でないから、結局債務者(相手方)の普通裁判籍所在地を管轄する裁判所に管轄を認めることとなる。そして、相手方の本店所在地は泉大津市であるから、本案裁判所は大阪地方裁判所(岸和田支部)である。したがって、未だ本案の係属していない原審裁判所がなした原決定には、そのかぎりにおいて、何ら違法はない。しかるところ、抗告人は、右移送決定に対して適法な即時抗告を申し立てるとともに、昭和五〇年二月四日名古屋地方裁判所に本案事件たる前記差止請求のほか、これに併わせて、実用新案権(仮保護の権利)侵害に因る損害賠償請求事件を提起したことは、当審における資料により明らかである。右損害賠償請求が民事訴訟法五条にいう財産権上の訴に該当し、その義務履行地は債権者たる抗告人の現時の住所地であるから、同条により、同裁判所が管轄権を有し、さらに、同法二一条により、差止請求についても、同裁判所が管轄権を有するから、右訴提起により、同裁判所が本案の裁判所に該当するといわなければならない。

仮処分事件において、管轄権を有しない裁判所に申請がなされ、当該裁判所で専属管轄違背を理由とする管轄裁判所への移送決定がなされたが、これに対する適法な即時抗告がなされ、右決定が確定しない間に、仮処分申請の裁判所に本案訴訟が提起され、同裁判所が本案につき管轄権を有するに至ったときは、仮処分事件についても仮処分申請時に遡り、管轄が生ずるものと解するを相当とする(なお、本件にあっては、仮処分申請は名古屋地方裁判所半田支部になされ、本案訴訟は同裁判所本庁に提起されているが、地方裁判所の支部は本庁と一体をなし、一つの管轄裁判所を構成するのであるから、本庁に本案訴訟が提起されたからといって、以上の判断を左右しない。)。

してみると、本件仮処分事件は、名古屋地方裁判所の専属管轄に服するから、本件抗告は理由があり、相手方の移送申立は結局理由がないことに帰する。なお、相手方は移送申立の理由として、審理の促進、訴訟経済上の事由を合わせ主張し、民事訴訟法三一条に基づく移送をも求めているが、仮処分事件の管轄は専属であり、同条は専属管轄に属する事件を除外しているから、この主張はそれ自体理由がない。

よって、原決定を取り消して、相手方の移送申立を却下することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柏木賢吉 裁判官 菅本宣太郎 杉山忠雄)

<以下省略>

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